ファミリーキャンプ 2006 報告

「たった2日間の涼しい夏休み」  (機関紙より)

晴天続き、気温も観測史上初の字が躍った猛暑の夏。
しかし、その日は、荒れていた。台風が接近しつつあったのだ。まるで夜逃げのような荷物を抱え、たった一人の子どもを連れて、私はバスに乗り込んだ。ちらほらと顔見知りはいるものの、「自己紹介しても、どうせおぼえられません」というポリシーに貫かれた集団は、同じように大荷物を抱え、子どもを連れていた。いったいどこに連れて行かれるのだろうか。バスの窓を激しく雨がたたき始める。息子は私の手をしっかりと握っていた。
水かさを増しつつあるように見える川のほとりの道をバスは走り、やがてうっそうと茂った森、いや、山の道に分け入ってゆく。ようやく車2台がすれ違えるような道だったが、対向車はない。やがて、廃校とおぼしき建物が見え、私達はバスから降りるよう促された。
田んぼと山以外には何もないところだ。携帯電話さえ圏外だという。漠然とした不安がその日の天気のように私の心を浸食してゆく。元教室だったという部屋にはたたみが敷き詰められ、私達はそこにひとまず荷物を下ろした。子ども達はそれぞれの居場所を確保しつつ、早くも見知らぬ同士でありながら遊びに興じ始めていた。大人は、空を見上げつつ、昼食の用意に取りかかっ
  
        
初日の昼食はやきそばでした

この場所では、すべてを自分たちでやらなければ、何も出ては来ないのだ。食事も、遊びも、休息も、すべて各自の意志で決定されてゆく。ひごろからぼーっとしているのが三度の飯より好き、という私にとってはまさにユートピアのようなところではあったが、誰もぼーっとなどはせず、着々と自分の仕事をこなしているように見えた。いったい何をすればいいのか。私はおずおずと、食器やボールを洗い、きびきびとした他の参加者の邪魔にならぬよう、それだけを念じながら、それでも言葉を交わし始めたのだった。

    

雨の中、竹を割って水鉄砲を作る。子ども達は何がそんなに楽しいのか、懸命に自分の水鉄砲に取り組んでいる。うまく水がとぶと歓声が上がる。周囲はこんなに雨がふっているというのに・・・。まだ水と戯れたいのか、と、自分の子どもを見ると、濡れることなどお構いなしで水鉄砲に興じている。あまつさえ、他の子ども達と水の飛ぶ距離の競争までしている。ああ、濡れる・・・。

        

 どうして子どもというのはこうも順応が早いのだろうか。さんざん遊び回った後は、大人に混じって夕食作りだ。丸ごと一羽の鶏が取り出され、ローストすべく下ごしらえが始まった。鳥という鳥が苦手な私は、思わず目をそむける。あのぶつぶつした皮はどうだ。首と足は切り落とされているとはいえ、あれは、あれは・・・。さすがに一部の子どもははじめは気持ち悪がっていたようにも見えたが、すぐに慣れたらしく、鶏の空の腹の中に詰め物を喜々としてやっている、様に見えた。私は食べるのは平気だし、パーツに分かれた肉に関しては料理もできる。しかし、その姿が生前を思い出させるような形態はいけない。トリガラスープのために求めた鶏ガラの中に、首と足が入っていて飛び上がって逃げ出した、思い出したくもない経験がある。トラウマといってもいいのかも知れない。

      
石釜で焼いた鳥の丸焼きは最高!
 いつの間にか小雨になっていた。外では火が起こされ熾火が赤々と燃える。石釜もどんどん薪がくべられて準備は整いつつあった。鶏とピザを石釜で焼くのだという。石釜の火の番を飽きもせず二人の男の子が汗だくになりながらやっている。外のたき火にも、何人も群れて、火かき棒で熾火をつつき回している。誰も何も言わない。やけどでもすると大変と、コンロにも近づけない親が多い中で、いったいここの親たちは何を考えているのだろうか。何事も経験なのだという。昨年、素足にサンダル履きだったという子どもはやけどを足の親指にしたからと、今年はしっかりスニーカーを履いてきていた。学習したのだろう。そう、子どもは学習するのだ。失敗を繰り返しながら、それでも少しづつ経験や知識を積み上げていくのだ。ナイフを使うことも、キリで竹に穴を開けることも、火をおこすことも、薪をナタで割ることも、すべてが経験だ。降り続く雨を見上げながら私はそんなことを考えていた。 
          
       
ピザの生地もみんなでこねます
   
夜のお楽しみは。。。もちろん花火!
まさに暗闇としか言いようのない夜が訪れた。家とは全く違うトイレにとまどう幼い子ども達を見るに付け、学校の怪談を連想したのは私だけではあるまい。しかし誰もあえてその話題には触れない。篠つく雨、暗闇、人気のない廊下、ぼっとん便所・・・。理科室に骸骨の標本でもあったら最高なのだが、さすがにそれはなかった。車の走る音も、救急車のサイレンも聞こえない、それはそれは静かな夜だった。
次の朝、私は何事もなく朝を迎えられたことに感謝しながら目を覚ました。だがその安らぎはすぐに打ち消された。息子がいない!!子ども達がいないのだ。まさか、まさか、子どもが通うことのなくなったこの学校が、子ども達を取り込んでしまったのでは!?

早起きしてパンつくり
私はかけだしていた。いや、子ども達はいた。早くも朝食の準備に取り組んでいたのだ。パン生地を整形している子、鉄板でパンを焼いている子、サラダにする野菜を、大人の指示の元、刻んでいる子。いきいきとした顔が並んでいた。さすがにばつの悪さを感じた私は、そそくさと身支度をすませ、準備の輪に加わった。
      

水遊び(せっかく用意した簡易プールが使えなくて残念!)

 この日は雨もやみ、水が冷たいというのにプールで泳ぎ回る子ども達をのんびりと眺めて過ごした。昨日作った水鉄砲が持ち出され、震えながらも子ども達はなかなか水から上がろうとはしなかった。しかし私はもう過剰な心配をすることから解放されていた。きっと風邪を引いたりする子はいまい。食事の支度に翻弄されても親たちはふだんのおさんどんとは全く違った顔をしていたのだろうし、見ず知らずの集まりとはいえ、話も弾んだ。
子どもも新しい友達ができ、一様に満足そうな顔をしていた。

      
ペットボトルロケット
    
しゃぼんだま
        
最後の昼食は恒例の流しそうめん
 やがて迎えのバスがお約束どおりにやってきて、私はまた、夜逃げ同然の荷物を抱えて乗り込んだ。もう隣に息子はいなかった。友達といっしょに坐っているのだった。疲れと安堵で、私はすぐに心地よい眠りに引き込まれていった。バスから降りれば、この記録的猛暑の夏休みの延長戦が始まるとも知らずに。

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